食品卸売業の将来像

需要側への参入

(可能性)

 卸売業による小売・需要側への参入の可能性は、一体あるのだろうかという問題です。業務用に特化した卸売業を除くと、欧米の大手卸売業者のほとんどが小売のチェーンを直営にしろ、ボランタリーにしろ、フランチャイズにしろ、経営しています。このメリットは、安定的な販売と末端の消費者情報が入ること、小売のノウハウを取得できることがあります。我が国の卸には、これらに欠けていることは、経営的に大きなマイナスであることは間違いありません。
 卸売業者が、これまで何度か試みたことは知っています。成功した事例もないわけではなく、今は小売業のような顔をしていることもあります。しかしながら、大きな成功を得たということは少なく、現時点でも、小売への進出を構想する企業はほとんどないのが実情です。

 何故か。卸の経営者に小売を経営するノウハウ、方法論がないことです。卸の経営者は、多く営業出身で個人の力で上がってきたために、異業種を理解して巧く自社に取り込むことができないのです。じゃあ欧米では、どうして巧く行くか。自分達にないものに取組む時、彼らは人材をスカウトする。決して自分達の中で処理しようとしないことです。権限と責任、そして報酬を保証するのです。外部から来た人材は、当然のように従来の役員達と合わない。合わないものを、どう自分達の中に取り込んでいくのかを真剣に考えないと、しょせん、人材の持つ力を生かすことなく追い出すことになる。そういう事例を多くみてきました。卸売業が、いまだ個人商店から抜け出せない問題点でもあります。

 さて、デフレ経済の下で、卸売業が川下への進出ができるのかがあります。なかなか難しいのが現実です。その一方で、デフレ不況の中で、閉店も増え、廃業も増えてきている現状があります。ゼロからのスタートではなく、ある程度、まとまった小売店の出物があります。チャンスと言えばチャンスなのです。

 自分達の経営だけで、フーフー言っている状況で何を言っているのかという方達も多いでしょう。また、引き受けたは良いが再生させる自信はない、そういう方々も多いでしょう。でもよく考えてもらいたいのは、同業者の皆が同じ苦闘の中にあって、何か新しい芽を拾うとすれば、川下への進出も、棄てたものではない。小売を経営できるかどうかの方が問題で、やはり人材の問題が核になる。内外に、それをやらせるだけの人間がいれば、引き受けることも次の可能性を生み出すことができます。

 人材は社員でなかろうが、若かろうが、女性だろうが、経験がなかろうが、関係ないことを知っておくべきです。どこまで必死にやってくれるのかがあり、社内の協力体制をどうするのかの方が問題だったりすることもあります。総論賛成各論反対は、常にあります。従来の卸の感覚で判断すると、間違うことがほとんどなので、社内の対応は注意深くした方が良いでしょう。



(スーパーへの進出)

 卸売業が川下に進出する形、特に食品卸売業の場合は、基本的にはスーパーになるでしょう。企業買収の場合も、スーパー以外はないでしょう(飲食店は意味が違う)。これは生鮮卸売業の場合でも同じで、生鮮卸売業は専門店のチェーンの可能性もありますが、従来の八百屋、魚屋では相当に無理がありますので、その問題は今日の話からは抜いておきます。

 自らスーパーを立ち上げる場合と、買収など既にある程度、商売をしているものとでは、対策に大きな違いがあります。


〜自身でスーパーを作る〜
 自らスーパーを立ち上げる場合、まず規模と立地が問題になります。卸が経営するスーパーをアピールすることが鍵ですので、特殊な商品を専門に扱う小型店を複数、出店する考えもありますが、一般的には比較的大規模な店を作る形です。
 いかに低コストで店を作るかがポイントです。初期投資が大きいと採算が取れるまでに時間がかかり、社内的にも批判されるネタになります。お客は店を買いに来るのではなく、商品を買いに来るのだと言うことを徹底することが必要です。そして卸が経営しているという力を、商品で見せるのではなく設備で見せることが大事です。
 仕入れについては自社から仕入れるという縛りは排除しなければなりません。小売進出は何の為だという話も出るでしょうが小売業として成功させることが本業の収益向上よりも優先されることですから、小売の担当者に自分で仕入れて自分で売ることを徹底させなければなりません。

 ある程度軌道に乗ってきたら、本業の卸との人的交流を行うことで、卸に小売的な感覚、小売に卸的な感覚を植え込むことで、卸が小売経営を行うメリットを得る形です。互いに何を学ぶのかを整理していくことが大事です。

 新規出店は従来の卸のお客さんとの競合を引き起こす可能性があり、一人のお客さんでも大事にしたい卸にとって大問題というか、避けて通れないものです。しかし、それに拘れば川下進出は無理ですし、お客さんの商売の不振が自身にも降りかかってきているのが、現在の状況でもあるのです。マーケットを保全するためにも、卸としてやるべきことの一つであると思います。


 食品の卸がスーパーに進出する場合に、最も、躊躇われる部分は自身の専門外の商品を取扱わなければならない点でしょう。卸はその分野のプロですから、商品知識や業界の慣行を知らないということが非常に重要に思われるでしょう。でもこれはプロの見方です。プロが見誤る部分です。スーパーというのは永遠なる素人であるということです。

 青果の卸をしていた社長さんが、大手の取引先から切られて、どうしようもなくなってスーパーを始めて、スーパーってこんなに楽なのかと驚いたと話をされていました。卸は毎日の駆け引きに神経を研ぎ澄まして、勝った負けたをやっている訳ですが、スーパーは時間の動き方が卸と全然、違います。そして素人であることを全面に出しても侮られることが少ないというか、向き合う消費者のことを忘れなければ、意外に簡単に回っていくものでもあります。何より日銭で金が入るので、金の心配が少ない。従って小売業は、やはり立地なのですが、昔に比べて車社会ですから、少々、遠くても大丈夫ということで、立地の選択肢は相当に大きいものです。

 施設投資の問題がありますが、食品スーパーとして立ち行くことのできる面積を確保できるかになります。周辺の競合に比べて著しく規模が小さければ、これはやはり特徴を強調した商品、安いとか、鮮度が抜群に良いとか、何か目に見えて訴求するものが必要になります。そして卸が経営しているという何か、加工の現場、倉庫とか、物の動きとかを消費者に見せることで、普通のスーパーとは違う何かを示すことが大事です。

 接客においても、卸らしさを見せるというか、消費者と積極的に会話して、どういう商品で、誰が作っていて、どうすれば美味しく食べれるかを示していくことが、卸の卸たる何かであると思います。当然のことながら、専門分野以外では、そこはそんなにできませんが、一部門でも、それをやれば、スーパー全体の雰囲気が一般のスーパーとは違ってきます。

 社員がここで頑張っていれば、スーパーの経営者になれるという道を作ってやるべきだと思います。暖簾分けになるのか、フランチャイズになるのかは別にして、スットク・オプションを使った形の励みを与えることで、川下への参入を成功に導くことができると考えます。


〜スーパーを買収する〜
 チェーンを買収した場合、やはり店の立地が注意点のポイントです。立地から店のスクラップ&ビルドが関わり、悪い立地の店は閉店のための資金が要りますし、良い立地の店は梃入れの為に改装などの資金がいるなど、投入資本の規模が変わります。
 次は、やはり人材です。店を手放すような状況にある訳ですから、まぁ、それほど立派な人材がいることは少ないですが、何と言っても、異業種からの参入で、経験が少ないメンバーで運営するのですから、よく分かっている人材は、やはり巧く使っていきたいものです。特に労働力の主体になるパートさんの扱いは正社員よりも難しい所があります。
 店のマネジメントでは、管理のポイントの押さえが重要で、金に関わる部分、人の手配に関わる部分、取引先との部分をきちんとしておかないと、従業員から盲点を突かれて、非常にだらしない店になる可能性があります。そして管理、管理で行っても、巧く行かないのは卸でも同じように、どうやってヤル気を引き出すかが、店長や売り場主任の腕になります。

 基本的に店のオペレーションは毎日、同じ事の繰り返しで、面白いことは多くないのですから、パートさんを含めて、商品の面白さや、お客さんへの関心を高めていく事が大事です。そのためにも、単に、上から言われているから労働をしているのだという意識を抜けて、商売をしているのだという意識を、パートさんも含めて感じられるようにすることが大事であると思います。
 せっかく卸がスーパーを経営しているのですから、卸の現場感覚、産地・メーカーとの交流、商品に関する知識などを、パートさんを含めた従業員に学ぶ機会を与えることで、毎日の気構えは変わってくるでしょう。

 店の繁栄が自分達の給料に直接繋がるという感覚、商売人としての感覚が、一番必要ですから、人事制度をきちんと説明し、実際にそうなれるのだという感覚を皮膚で感じさせることが重要です。
 流通業は、基本的に人の流動が高い方が人件費圧力を下げることができます。引き受けた店の人達は、数年の内にいなくなることを前提にした取組みになります。その点も意識しながらマネジメントを行っていく。教育トレーニングは不可欠です。