食品卸売業の資金管理=リスク管理


 卸売業、中でも食品卸売業にとって、経営における最も重要なことは、資金管理であると言って過言ではありません手元に最終的に残るお金の何10倍のお金が通過しており、その管理を誤れば一挙に破綻に見舞われるからです。資金管理とは、食品卸売業にとっては、取引先に対してのリスク管理に繋がる課題です。小売業や飲食業では、毎日、営業すればお金が入ってきて、その中から支払いにまわしていきますから、資金管理は重要な経営課題ではありません。製造業の場合は、製品を作り出すために膨大な設備投資を含め資金が要りますが、一旦、製品がマーケットに投入されれば、その売れ行きを見ていれば、資金管理ができますので、重要ではあるけれど、数ヶ月のスパンで検討すべき課題であって、日々の問題ではありません。

 卸売業の資金管理は、売上代金が入るタイミングと、仕入れ代金の支払いのタイミングがずれがあり、支払いが先行すると大きな危険性を孕む問題になります。一般に卸売業の営業利益率は高くとも10数%、普通は7〜8%、商社などでは2〜3%も珍しくありません。入金の遅れは経営に大きな負担を生じます。一般の卸売業は、この問題は小さな課題でしかありませんが、市場法によって支払いサイトが決められている生鮮の市場仲卸には大きな問題であり、仲卸衰退の一因ともなっています。
 一般の卸売業者の場合は、リスク管理の一つとして捉えられます。取引先の経営状況を把握し、もしもの時の債権管理が主要に業務になります。相手は顧客や仕入先ですので、かなり気を使う部分で、最初の接点での紹介者や、毎日の商品の動き、毎月の入出金などの把握、他の取引先での支払い関係など、業界の中で幅広い情報を収集し、判断する必要があります。
 勘と経験がものをいう世界で、顧客や仕入先の経営の質を評価する重要なノウハウを含みます。少々のリスクは互いに承知の上であり、リスクを大きく踏み込んで収益をとる手法も経営判断です。それが卸の経営の質を決定付けるものにもなります。
 資金問題には、かつては大きな経営問題だったものに在庫投資があります。相場の安いときに大量に仕入れて高くなった時に利益を得る方法です。しかし、商品の寿命が著しく短くなり、必ず売れるという保証が段々、少なくなってきたことから、問屋もできるだけ在庫を持たずに商売を組み立てるようになっています。在庫のリスクは、今は全面的にメーカーが負う形ですが、それもリードタイムを減らして需要の即応した生産体制の確立にメーカーは努力しており、流通在庫はどんどん絞り込まれています。
 実需者、生産者の需要/供給変動に対応を押し付けられる状況の中で、問屋としての対応、サービスレベルの設定=資金管理ですが、かつてのようにリスクが必ずしも利益に結びつかない辛さがあります。

 この間も、ある卸さんに行ったら、大騒ぎをやっていまして、偽装倒産で取引先の社長が逮捕されたとのことでした。債権保全をやっていたから、内はまぁ、被害は少なかったけれど・・、そんな話でした。「悪質なんだよ、弁護士からなんか吹き込まれて、おかしくしちまいやがって。」担当営業の話です。
 最近は、弁護士もゴミみたいなのがおりまして、売上債権を隠して、次の商売の資本にしようとしたことで、話がこんがらかったようでした。弁護士の変な入れ知恵が事態を悪化させたようです。もうこの業界では取引先の社長は商売できないでしょう。

 卸売業には、こういう話が多くあります。取り込み詐欺が、よくあるというと語弊がありますが、ちょっと油断していると、えらい目に会うことがあります。このため最初の取引の時には互いに用心して信用調査を行いますが、信用調査もしょせん、人間がやることですから、なかなか内実は分からない。このため同業者からの評判は欠かせません。
 何回かの取引の後から、本当の姿というか、詐欺を行うのが手ですが、まともじゃないですから、何年もかけて信用を高めてから、詐欺をするのはさすがに稀です。

 問題は長年の取引をしている中で、経営不振というか、資金繰りから、思わずだか、周到な計算からかはともかくとして、詐欺に近い行為やら、犯罪そのものに手を出してしまう。本人は刑務所行き、会社は倒産、周りの取引先は債権を抱えたまま、今度は自分の身が危ない。まぁ、こういう話は皆さんもよく知っているでしょう。

 卸売業のマネジメントとして必要なことは、不断の情報収集があります。与信管理の徹底を促すと共に、営業マンに、もしもの場合の方策の訓練、債権保全のための内容証明書の書き方、預金を始めとした資産の仮差し押さえ方法、代物弁済の方法、連帯保証人への対応等の法的な訓練を、実際の現場の中で体験させることが非常に重要です。修羅場を体験してこそ卸の営業というものです。

 こういう話は、大概は何らかの兆候があるもので、敏感な取引先は商いを狭めて行きますが、売上が欲しい営業や企業が、その穴に猪突猛進して被害を大きくすることが多くあります。用心だけでは商売はできませんが、無用心は自分で自分の首を絞める結果にもなります。会社というのは欲望の塊みたいなものですが、それでも、あそこまで落ちぶれたかと言われないようにしたいものです。