子供達の世界は勉強ができる、できないで区分けされるようになり、多様な価値観が入り込む余地をなくしました。 このことが強度に子供達を苦しめることになります。暴力は内部に向かって行ったようです。 1983年に森田芳光監督の「家族ゲーム」は、この時代を象徴するものであったでしょう。

 また、俳優穂積隆信氏の自分の娘の非行を綴った「積み木くずし」も、非常に評判になり、大変な印税収入などをもたらし、それが一時、更生した娘を再び非行に走らせ、離婚も起きるなどの悲劇をもたらしました。


 この強度な圧迫の中で、自己主張が強い子供達は、つっぱりや暴走に向かいますが、巨大な集団の中では、弱い者への暴力は、弱さの現われとして強く自己規定されていたのですが、大集団が崩れると、数人の暴力的なグループは、力の弱い者に虐めという形で振り下ろされていきました。また、虐めを契機として自己否定が弱い子供達に蔓延し、引き籠りや自傷行為、自殺が多く見られるようになります。それは行き場のない不安感が覆っていたからなのでしょう。引き籠りの8割は男の子、キレる子供の9割が男の子と言われ、男の子の生きる難しさを強いることになりました。

虐め/ 引き籠り/ 自傷行為/摂食障害

 86年に中野富士見中学いじめ自殺事件でとうとう死人が出る事態になってしまいます。虐めの暴力は止め処もないものに変容していきます。相手が服従しても止まらない、支配を超えた暴力になっていきました。
日録20世紀1986
水谷修「夜回り先生」
 その前から噂は相当にあり、問題視されつつありました。虐めを原因とした子供たちの引き籠りも話題に浮上してきていました。どんなに良い大学に入っても、社会から引き籠ってしまう若者が出始め、それに苛立った親を殺す事件も起きてきます。これは我が国だけの問題ではなく、全世界で共通の問題になっていたことが判明します。ある種の文明病のような、隠されていたものが露出してきた感覚があり、重い課題を負う形になります。

浅野いにお「虹ヶ原ホログラム」
東鍋昌平「闇金ウシジマくん」

 虐めは一時的に下火になっても、またぶり返すことを繰り返しながら現在に至ります。虐めを放置していたと教員や学校への非難は強くありますが、家族自体が壊れているケースもあり、特に幼少のなさぬ仲の子供への暴力は止まることなく続いています。


引きこもり
 Wikipediaでは引きこもりの問題は平成に入ってからになっていますが、70年代も末ぐらいから起きてきました。虐めなどをきっかけとして子供が外に出ない、自分の部屋にこもるという現象です。Wikiから『引きこもり(ひきこもり)とは、人がある程度狭い生活空間の中に退避し、社会生活の場や一般的な人間関係が長期にわたり失われてしまっている状態のこと。具体的には、自分の部屋でほとんどの時間を過ごし、学校や会社には行かない状態、あるいはそのような状態に陥っている人のこと。』

唐沢なおき「まんが極道」
郷田マモラ「サマヨイザクラ」

ネットから拾ってきた画像です。

 しばしば家庭内暴力を伴い、悩む父親が息子を殺したり、逆に引きこもりの若者が両親や兄弟を殺すという事件まで起きてきます。平成18年には、引きこもり当事者が親を殺害する事件が5件、親が引きこもりを殺害する事件が2件あった。そのうち2件では本人も自殺している。

 その頃、たまたまヨットスクールを経営していた戸塚宏氏が、スパルタ式教育で、引きこもっていた1人の子を立ち直らせたことが評判になって、藁をもすがる親が戸塚ヨットスクールに子供を預ける、まるで引きこもりの子を助ける学校か病院のようになってしまったのです。スパルタ式教育は一部の子には効果がありましたが、当然のように万能ではありませんでした。スパルタ教育の中で虐待で子供が死ぬという戸塚ヨットスクール事件が起きます。マスコミからは激しい非難を浴び、有罪判決も受けましたが、引きこもりの子を持つ親たちの支持は続きました。他に方法がなかったからです。

                       
 最近では20年、30年引き籠った例も多く出てきており、事態は深刻化を増しています。

自傷行為
 何度も自殺を企てる人々、出血で死に至ろうとするリスト・カッターも登場し、死への関心は強まっていきます。かつてのように社会が悪いという意見は息を潜め、むしろどのようにしたら楽に死ねるかの方に関心へと変容していきます。

   あたしは死にたくなかった
   あたしは生きたかった
   あたしは生きるために
   手首を切ったのだ
            岡崎京子「恋愛依存症」


岡田敦「I am」

BurstHigh2003.5

 アイドル岡田有希子の自殺が何故、あれほどの反響を呼んだのか。30名余りの青少年が自殺し、「そのほとんどが、岡田と同様に高所から飛び降りて自殺した」。この影響はほぼ1年続き、1986年はその前後の年に比べて,青少年の自殺が3割増加したという話です。彼女はリストカットもしていたという話もあり、共感するものが多くあったのでしょう。

自殺現場に花を添えるファン 日録21世紀1968

岡崎京子「ヘルタースケルター」
  上村一夫「同棲時代」

摂食障害      
 この時代から強まっていく社会病理に摂食障害があります。ほとんどが若い女性です。痩せ願望から始まりますが、本人以外からは太っていない、痩せていると見なされている人が強度に痩せることに走り、栄養失調による死亡もあります。有名なのはカーペンターズのカレンで、Wikiによれば、「1983年2月、両親の家で意識不明になっているところを発見され、同日死去した。32歳の若さだった。過食症と拒食症の症状を繰り返した長期の闘病生活が心臓に負担をかけ、急性心不全にて亡くなった。彼女の死は社会に衝撃を与え、拒食症などの摂食障害が社会的に認知されるきっかけとなった。(一部修正)」
 若い娘が老婆のような姿をさらす凄まじいものがあります。引きこもりが男の子に多い病だとすれば、摂食障害は同年齢の女の子の精神的な病気であるのでしょう。安野モヨコさんの「脂肪と言う名の服を着て」は太った若い女性の苦闘、身体がブスだからではなく、「心がブスだから」というセリフに象徴されるのでしょう。





岡崎京子「リバース・エッジ」